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神戸地方裁判所 平成元年(行ウ)7号 判決 1991年1月28日

兵庫県加古川市尾上町養田三七三番地

原告

大崎大輔

右訴訟代理人弁護士

麻田光広

丹治初彦

同市加古川町木村五の二

被告

加古川税務署長 片山金治

右指定代理人

小見山進

北村博昭

山上善廣

中田孝幸

堀内眞之

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告が昭和六二年五月一八日付けで原告に対し、加古川資産第一三三号をもってなした相続税の更正決定を取り消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

第二請求原因

一  訴外亡大崎勉は、昭和五八年一一月一八日に死亡し、その子である訴外大崎きよ子、同成山公子、同松本百代、同小村範子、同田中八千代および原告が、右亡大崎勉の相続(以下、「本件相続」という。)をした。

二  原告は、本件相続につき、申告期限内である昭和五九年五月一八日別表一のとおり相続税の申告をした。

三  被告は、原告に対し、昭和六二年五月一八日別表二のとおり相続税の更正決定(以下、「本件更正」という。)をした。

四  原告は、本件更正に対し、昭和六二年七月九日被告宛に異議申立てをなしたところ、同年一〇月八日却下決定を受けたので、昭和六二年一一月五日国税不服審判所長宛に審査請求の申立てを行ったが、昭和六三年一一月二二日大裁(諸)六三第四六号をもって審査請求を却下され、原告は、右却下決定を同年一二月一日付け大審(特)一二三号をもって通知を受けた。

五  しかしながら、本件更正は、以下の理由により違法で取消しを免れないものであるので、その取消しを求める。

1  本件更正決定には、不服申立てにかかる教示が行われていず、適正手続に違反する。

2  本件更正における「申告期限までに納付すべき税額」は過大である。

六  訴えの利益について

本訴においては、以下の事情により、訴えの利益を肯認すべきである。

1  本件更正において、原告の申告と比べて、課税価格が増加している。

2  租税特別措置法(以下、「特措法」という。)の適用により納税を猶予された税額を差引税額より控除した後の「申告期限までに納付すべき金額」が、本件更正において、原告の申告と比べて増加している。

3  本件更正に至る経緯は、次のとおりである。

原告を含む相続人らは、訴外大崎克巳税理士に依頼し、昭和五九年五月一八日相続税の申告を行った。右相続税の申告に対し、昭和六〇年六月頃より税務調査が行われ、同年七月時点ては、

<1> 相続財産の一部である土地(加古川市尾上町養田養田開拓一四一〇-一、同一四一一-一、同一四一一-二、同一四一二-三、同町旭町三丁目二〇、旭町二丁目三四)につき、評価、通達の地域別、倍率の見誤りが存し、過大計上に基づく申告を行っている事実

<2> 現金、預金類の脱落している事実

<3> 被相続人の受小作田地一筆(加古川市尾上町養田一二七番地、田一一五六平方メートル)についての評価を零としている事実

の三点が問題点として、被告の調査担当官と前記大崎税理士との間で確認された。右大崎税理士は、原告を含む相続人らの代理人として、被告調査官に対し、右<1>、<2>は認め、<3>については相続税申告記載のとおりで間違いがない旨答え、<3>の点はさておき、<1>、<2>の二点について先行して処分を行うか、仮に処分に日時がかかるならば、相続人側で更正請求することを申し出た。なお、右<1>、<2>について、原、被告間での了解どおりの処分が行われれば、減額更正処分となるはずのものであった。ところが、被告調査担当官は、<3>の点についての結論を短期日内に出すので、更正請求手続を暫く待っておくように言明したので、右手続はとられず、また更正決定もなされず時間が経過した。その後、被告の調査担当官の交代があったが、そのまま放置され、昭和六一年夏以降、前記大崎税理士が被告を訪れ交渉したが結論が出されず、時効完成の前日である同六二年五月一八日、調査担当統括調査官が自ら相続人代表の住居まで持参して本件更正を通知してきた。本件更正決定では、前記<3>についての相続人らの主張は認められず、当該土地の更地評価額一三三一万七三〇〇円の一〇〇分の五〇を耕作権として評価しているほかは、前記<1>、<2>については昭和六〇年七月当時に被告と相続人らとの間で確認されたとおりの内容であった。

被告の調査担当官は、小作耕作地の評価を除いては、原告との間で申告書の記載に誤りがあることについて合意に達しており、原告代理人税理士が右耕作地の評価を除いて早急に更正決定を行うように求めたのに対し、時効成立の直前までその決定を放置し、時効成立直前に更正決定を行い、これを争う途を閉ざしたのであって、本訴の門前払いを主張することは許されない。

また、原告が修正申告することができる期間を徒過したとしても、被告は、一旦減額事由に基づき減額更正をすべきであった。実際にも、更正の請求期間徒過後、納税者からの嘆願書を容れて減額更正を行っているのが現実である。

第三当裁判所の判断

一  訴えの利益について

1  請求原因中別表二によれば、本件更正は、原告の相続に係る相続税法二七条一項の規定による申告書の提出により納付すべき相続税額を減額するいわゆる減額更正処分であるから、本件訴えは、訴えの利益を欠くと言うべきである。

2  原告の主張に対する判断

(一) 請求原因六1(課税価格の増加)について

相続税法上の納付すべき税額とは、相続税法二七条一項に規定する相続税額(以下、「差引税額」という。)であるから、相続税の更正処分の本質は差引税額の確定にあり、訴えの利益は、この差引税額の増減に着目して判断すべきであり、差引税額の算出過程である課税価格により判断すべきものではない。

(二) 請求原因六2(「申告期限までに納付すべき金額」の増加)について

「申告期限までに納付すべき金額」は、元来更正処分の対象ではなく(国税通則法二四条)、また、その額は特措法七〇条の六(納税猶予)等の適用の有無により左右され、本件更正と連動するものではない。

(三) 請求原因六3(本件更正に至る経緯)について

原告が主張するところによれば、原告に対する税務調査が行われた昭和六〇年六月ころは、本件相続の開始した昭和五八年一一月一八日に相続開始を知ったとすれば申告期限となる昭和五九年五月一八日(相続税法二七条一項)から一年を経過しており、原告から減額の更正の請求(国税通則法二三条一項)をなしうる期間を徒過していたことは明らかである。してみると、請求原因六3の本件更正に至る経緯がそのとおりとしても、別段原告の権利が侵害されたとは認められず、訴えの利益を肯定する理由にはならない。原告の申告に増額事由と減額事由が存するとき、まず減額更正をすべきことを被告に求める権利は原告には存しない。課税の実務上、更正の請求期間徒過後に納税者からの嘆願書を容れて課税庁が減額更正をすることが行われているとしても、それは納税者に右の如き課税庁の対応を求める権利を付与したものではないから、本訴における訴えの利益の帰すうに何ら影響はない。

3  以上により、訴えの利益を肯認すべしとする原告の主張はすべて理由なく、結論として、訴えの利益は否定するほかはない。

なお、このように解しても、原告において、特措法の適用による納税猶予額に不服があるときは、相続税の徴収手続において「申告期限までに納付すべき金額」が過大である旨を主張してその減額に対応した徴収手続を求めることができるから、別段原告の救済に欠けるところはない。

二  結論

よって、本件訴えは、不適法であるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 裁判官 井上薫)

別表一

<省略>

別表二

<省略>

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